コーモラン&コーメリアン巨人

2014年5月11日RESEARCH

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【コーモラン&コーメリアン巨人】
訪問場所:セント・マイケルズ・マウント(イギリス・コーンウォール州・ペンザンス)
日時:2014年4月24日
訪問者:山本麻紀子

<コーモラン&コーメリアン伝説>
昔、コーンウォールに手足の指が6本あった巨人族がいた頃、セント・マイケルズ・マウントは森に囲まれた岩山でホワイト・ロックと呼ばれていた。ここにコーモラン(夫)とコーメリアン(妻)という巨人夫婦が住んでいて、辺りの森より高く岩を積み上げ砦を築くことにした。白い花崗岩を二人で運んでいたが、ある日コーモランが眠っている間、コーメリアンは花崗岩よりも軽い緑岩石をエプロンに入れて運んでいた。目が覚めたコーモランは、違う石を運んでいるコーメリアンに腹をたてて、尻を蹴飛ばした。エプロンの紐がきれて石が落ち、コーメリアンは死んでしまった。その時コーメリアンが落とした緑岩石が、今もセント・マイケルズ・マウントに行く途中に右手に見えるチャペルロックと呼ばれる大きな岩である。そして二人が積み上げたホワイト・ロックの砦がセント・マイケルズ・マウントだと言われている。また別の話でも、コーメリアンはチャペルロックと結びつけられている。同じようにコーンウォールに巨人たちがいた頃、トレンクロームの丘にトレクローベンという巨人いた。彼は、対岸に浮かぶセント・マイケルズ・マウントの洞窟に住むコーモランのいとこで仲がよく、一本のハンマーを海を越えて共有し、海を越えて丘と洞窟の間を投げ合って使っていた。ある日、トレンクローベンが投げたハンマーが、運悪く洞窟から出てきたコーメリアンの眉間に当たって彼女は死んでしまった。コーモランとトレクローベンは、悲しみのあまり、丘を吹き抜ける風よりも大きな声を出して嘆き悲しんだ。二人は現在も残っているチャペルロックの下にコーメリアンを埋めた。トレクローベンは自分の過失を悔やみ、トレンクロームの丘にある城の奥深くに黄金を埋めた後、間もなく死んだ。今日に至るまでに多くの人がその宝を探して丘を掘っているが、まだ見つかっていない。また、このコーモラン&コーメリアン巨人は、「巨人殺しのジャック」にも登場する。

<日記>
2014年4月24日。ペンザンス滞在4日目。毎日巨人のことで頭がいっぱい。今日はセント・マイケルズ・マウントに行く。ロンドンからペンザンスに向かう電車の窓から見たあの島。頂上にお城があるあの島。コーモリアン&コーメリアンという巨人夫婦が作った島。どんなところだろう。ドキドキする。個人タクシーを予約した。面白いおじさん。タクシーに乗って行き先を伝える間もなく、「どうしてこんなところに来たの?」という質問。アジア人がほとんどいないペンザンスでは私みたいなのがいるのが珍しいみたい。巨人伝説を追いかけてここまでやってきたと伝えると、急に乗り出してきて「あっちにあるトレンクロムの丘に巨人の頭が埋められた場所があって、そこに絶対行ったこうがいい!一軒家の家の庭にある。俺が連れて行ってやるから。」と。ほんとかな?嘘でしょ。でも気になる。と思いつつ、今日はセント・マイケルズ・マウントの巨人夫婦に集中したかったので、また次回にと詳しい話をメモに残した。セント・マイケルズ・マウントに渡れるポイントであるマラザイオンまでは車で15分くらい。引き潮だと道が現れ島まで歩ける。満ち潮になると船に乗らないといけない。今は引き潮。だから歩いて行ける。帰りは船になりそう。マラザイオンに到着。タクシーを降りると、かもめの鳴き声が私を出迎えた。
目の前に、セント・マイケルズ・マウントに続く赤茶色い石畳の道があった。感動。あの島にこれから行ける。一台の車が私を通り越して島のほうへ。車も通れるのか!石の道には、わかめみたいな海藻がへばりついていて、ここが少し前は海の底だったんだと気づく。石の道のすぐそばには波がたって優しい波音を聞かせてくれている。足下ばかり見ていた顔をあげると、威厳のあるお城がどどーんと目の前にたたずんでいた。島に上陸し、お城の門をはいると、そこは緑がいっぱいで様々な鳥の声で溢れていた。木漏れ日がとてもきれい。青空と木々のざわめき。この島の全ての生き物がみんなでぎゅっと力を合わせて1つになって力強く空気を作りだしてくれているような、そんな気がした。
石畳を登って行くとすぐにThe Giant’s Well… 巨人の井戸があった。どういうことかな。この島にはたくさんの巨人伝説が入り交じっている。きっとこの井戸は私がまだ調べていない「巨人殺しのジャック」伝説に関係しているのだろう。勇敢なジャックに、この島の巨人コーモランが殺されたという話。私は、今回の旅においては、「巨人殺しのジャック」伝説が誕生するよりも前のむかしむかしの巨人夫婦の物語を選んでいたので、この井戸にあまりピンとこない。そのまま石畳の道をあがって行くと次はThe Giant’s Heartというサインが。巨人の心臓… これもきっと「巨人殺しのジャック」に関係しているんだろうな。ここにコーモランの心臓が埋められた、ということかな。私が今回取り上げた伝説には井戸や心臓というキーワードは出て来ないので、あっさりスルーしようと思ったが、ちょうど少年2人がやってきて、ハートの形をした石を指差してみせてくれた。小さい!幅10センチもないくらい。巨人の心臓がこんな小さい心臓なわけがない!そう思いながら、とにかく、コーモランとコーメリアンが島の頂上から、どんな景色を眺めていたのか、その景色をめがけて上へ登り続けた。所々に、小さな洞窟の入り口のようなのがあったり。不思議な形をした大きな岩があったり。
やっと頂上。お城がどっしり構えている。お城の前からマラザイオン方面への眺めは素晴らしかった。遠くになだらかで低い丘がずっと連なり、海辺は砂浜がきらきら輝いていた。私が今たっているところは、昔は森に囲まれた岩山だったのか。その岩山に来たコーモランとコーメリアンはきっとこの眺めにうっとりしたに違いない。そしてこの場所に自分たちの砦をたてたい、そう思ったのだなあ、と、その気持ちに乗っかっている自分に気づいた。
周囲を高いところから見渡せるというのは、安心に結びつくんだな。巨人たちはきっと色々な争いがあったに違いない。巨人同士でも、人間とでも。その時に、少しでも安心を求めてああやって見晴らしのいいところへ住処をみつける。洞穴とか暗いところに隠れていないで?そうか、別に隠れる必要がなかった。巨人さんは巨人さんとして人間とともに生きていた頃があったんだろうな、そう思えた。
帰る頃には満潮だったのでマラザイオンまでは船に乗った。船から眺めるセント・マイケルズ・マウントは海に浮かぶ島。あの島は、どんなことがあったとしても、あそこにたたずみ続けるような気がした。とても力強く、とても凛と、あの場所にずっと定住したいと決めた巨人夫婦の心を表わすように。
ホテルに戻ってからトレンクロムの丘の巨人のことを調べた。トレンクロムの丘に住むトレクローベン巨人は、セント・マイケルズ・マウントに住むコーモランのいとこで、1つの斧を島と対岸の丘の間を投げて一緒に使っていたのだそう。ある時、トレクローベン巨人の投げた斧が運悪くコーメリアンのおでこにあたりコーメリアンはそのまま亡くなってしまった。残されたトレクローベンとコーモランは嘆き悲しみ続けたんだと。悲しい話。カーン・ガルヴァの丘のホリバーン巨人も自分の過ちを悔やみ悲しみに打ち拉がれたとある。ペンザンスにはどこか物悲しくて、心を痛める、人間らしい巨人さんが多いのか。次は、「巨人殺しのジャック」伝説と、タクシーのおじさんが教えてくれたトレクローベン巨人のことをちゃんと調べてから、もう一度、セント・マイケルズ・マウントに行きたいと思った。また必ず来る、そう強く思った。まるで、勝手にコーモランとコーメリアンに約束したみたいな感じだ。